審美 歯科 費用のこれからの変化
緩和ケア病棟に入院された患者さんの中で、まったく腹水がたまらない状態で過ごしている患者さんがいたんです。
ご本人は快適だとおっしゃる。
それで担当医師に聞いたら、「腹腔静脈シャント」を入れている、というんです。
さっそく、データを持ってきてもらって検討しました。
確かに、効果がありそうだと思ったんで、消化器センターの肝胆陣グループに依頼してやってもらえないか、と話をしたんです。
実は、肝胆豚グループの患者さんの間では、このシャント技術をすでに導入していて実績があったんですね。
やってみましょう、とすぐに言ってくれました」M医師の依頼を受けて、肝胆陣グループはNさんの体内に、腹腔静脈シャントの細い管と小さなポンプを埋め込む手術をすることになりました。
この処置は、画像で管の位置を確認しながら行うため、血管造影室で行われます。
Nさんは、この処置も、緩和ケア病棟に入院点滴の管やその他もろもろの管でつながれる状態は、誰にとっても煩わしく不快なものです。
Nさんは、そうした状況にならず、身軽な状態でいられたのです。
「しかも、これをやっていただいたら、食欲が出てきたんです。
もうそれまでは顔色も悪いし、動くのも嫌だという感じだったけど、腹水がたまらなくなったら、ずいぶん楽になったんですね」Nさんはまた、出血に伴う貧血にも悩まされていました。
それも解消しました。
「出血してしまう人に対して、輸血をする、なんて無駄、という考えもあると思っています。
でも、私は貧血でだるいのなら、それをとりましょう、と輸血もしていただけました。
食欲がしながら受けることができました。
「ここ、ご覧になってみて」Nさんが肩のあたりをみせてくださいました。
「体の外に管が出たりしていないでしょ?中にあるんですから、ふつうにしていられるんです」Nさんは、少し涙されました。
「自分の病気のこと、こんなふうに振り返って話すことなんてなかったものですから。
私は自分のがんが治らない、ということは受け止めています。
でも痛いのや辛いのはなるべく避けたい。
やはり怖いと思います。
そのことを、先生はよくわかってくださいました」出て、動けるようになって、何だかとても元気になってしまったんですね。
そうしたら、今度は、先生が、「もしよかったらご自宅に戻りますか?」とおっしゃってくださったんです。
Nさんは、入院するとき、遠くない時期に自分の命が尽きるかもしれない、と覚悟を決めていました。
しかし、辛い症状の一つ一つが、緩和ケア科の病棟で、他の診療科との連携によって取り除かれていきました。
そして、Nさんは、大型連休を自宅に戻って過ごすことになったのです。
「夢のようです。
家に帰ったら家族のもとで、ふつうに過ごしたいです。
本当に、こういう日を迎えられるとは、まったく思っていませんでした。
ここの緩和ケアがどういうものか、みんな知らないと思います。
体が楽になって、しかも効果のある治療を受けられて、嬉しいです。
「何をしたいですか」とうかがうと、Nさんは、「何をするということでもなく、ふつうに自分の家で過ごせればそれでいいんです。
ふつうに、過ごしたいんです」「何もしない医療」「ただ看取るだけの医療」とみなされがちな緩和ケア。
それが、Nさんにとっては、「明日に希望を生みだす医療」となったのです。
末期のがんだと宣告され、そのことを受け止めながらも、一つの治療に賭けたいと強く願ったNさん。
転院してきた有明病院では、その治療を、かかっている診療科ではないところでも期間を空けずに受けることができ、治療をやり残した、という後悔の念にかられることもありませんでした。
食欲不振、倦怠感、腹水のたまる辛さ、貧血による不快感……がんに伴う辛さに対しては、モグラたたきのように、一つ一つを取り去る治療が続けられました。
そして、Nさんは元気を取り戻し、「もう二度と帰ることはない」と思っていた自宅で、再び大型連休期間を過ごされることになったのです。
亡くなられたNさんのご自宅で、私はご主人に初めてご挨拶しました。
Nさんの遺影は、少女のような清らかな笑顔でした。
とても亡くなられた方と信じられず、思わず「まあ」と声を上げてしまうほどでした。
そして、そのお顔は、私が取材させていただいた、緩和ケア病棟の病室にいらしたときの、一時退院目前のお顔のままに感じられました。
あのときも、遺影と同じようにやさしくほほえみ、生き生きとされていたのです。
ご家族は、Nさんが私の取材を受けられたことをご本人から聞いていて、そのときの様子をお尋ねになりました。
私はNさんにお会いしたときの内容をメモにしていたので、それをもとにお伝えしました。
と言葉をかみしめるようにおっしゃっていました。
その念願を果たしたNさんは、連休を自宅で過ごした後、また病棟に戻られました。
病院に戻ってからは病状が進み、だるさも増していたそうです。
Nさんが残念ながら亡くなったのは、それからそう遠くない時期でした。
亡くなる前、主治医のM医師に「もうこれ以上は十分だと考えています」とおっしゃっていたそうです。
話し終えて次男の方に、「私のお会いしたお母様は本当にエレガントな女性ですが、ご家庭でもそうだったのですか」とうかがうと、「家族だから、何と答えたらいいのか」と少し照れておられましたが、「そうですね。
まったくそのとおりで、変わりありませんでした。
声を荒げたこともありまとのことでした。
息子さん二人、同じ境遇の私には到底考えられないことです。
藻としたNさんのお顔を改めて思い出しました。
夫の敦さんも、「あんな女性はいませんよ。
それほどすばらしい女性でした」と声を詰まらせました。
敦さんは、ある病院の救命救急センターに勤める脳外科が専門の医師です。
「がんの医療に対して、どうあるべきだと思いますか」という質問には、次のような答えが返ってきました。
「自分は救命救急の仕事をしているけれど、同じ医師として、がん医療については、違和感を感じました。
私の専門領域では、患者さんが来ればすぐに対処する、時間との勝負、というのが当たり前です。
そうでなければ、患者さんの命に関わるわけですから。
でも、がん医療というのは、どうも、時間じゃないんですね。
患者であるこちらが焦っていても、検査の結果が出てくるまでに時間がたつ。
手術するとなってから手術日までに、月単位で日が経過する。
まあ、そんなに焦らないでいいじゃないか、といった具合でした。
だから、本当はもっといろいろ機動力をもって迅速に対応すべきなんじゃないか、という思いもあるんです。
ただ、緩和ケア病棟に対しては、つぎつぎに早くやってもらえた、そんなふうに思っていませんし」私は、こううかがいました。
「同じ医師として、どうなんでしょう、緩和ケアというものは体験されて、予想と違ってらっしゃいましたか?」「全然、想像したのと違ってましたよ。
皆、知らないと思いますよ。
でもどうなのか、癌研の緩和ケアというのは、ちょっと一般的でないというか、ほかと違うんじゃないかな。
そんな気がするな」「自分の受けているここの病棟での医療に一○○パーセント満足しています」生前のNさんご自身の言葉です。
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